川邊暁美のショート・コラム

「時事通信社」発行の”コメントライナー”に話し方やコミュニケーションについて執筆しています。

逆境から立ち直る力

第7326号  2021年8月31日(月) [印刷用PDF

◆ 五輪選手たちの感謝の言葉

 いつの頃からか首相や知事、専門家の言葉などを遠くに感じるようになり、冷めた目で眺めている自分がいる。コロナ禍による自粛疲れ、緊急事態宣言慣れ、ワクチン接種による気の緩みが指摘され、報道される「医療の逼迫状況」や「総力戦」呼び掛けの緊迫感も、頭では十分に理解できるのだが、希望の光が差しかけては閉ざされる繰り返しに振り回され、心身が疲れてしまっている感は否めない。

 久しぶりに気分を高揚させてくれたオリンピックでも、競技を終えた選手たちが真っ先に、大会を開催してもらえたこと、関係者・ボランティアの方などへの感謝の言葉を口にするのを見て、選手たちがどれほどの逆風に耐えながらオリンピックを目指してきたのかと思うと胸が痛んだ。

◆ 谷真海選手の大切なもの

 そして、さらなる厳しい状況下で東京パラリンピックが開幕した。パラリンピックの理念は「失われたものを数えるな、残された能力を最大限に生かせ」だという。

 8年経った今でも忘れられない言葉がある。2013年の国際オリンピック総会で、2020年東京での五輪、パラリンピック開催を勝ち取ったチームジャパンの最終プレゼンテーションでのパラリンピアン・谷(旧姓・佐藤)真海選手の言葉だ。その高い完成度と場の空気を一瞬に変えた声・話し方、心を打たれたメッセージについては、かつて私も紹介したことがある。

 「私がここにいるのはスポーツによって救われたからです。スポーツは私に人生で大切な価値を教えてくれました」。冒頭のこの言葉から心をつかまれ、身を乗り出してテレビ中継画面に見入った。さらさらのストレートヘアーにさわやかな笑顔の彼女がいた。陸上選手でチアリーダーでもあった19歳の彼女が突然骨肉腫を発症し、右足膝下を切断したという自身の経験を語っていく。

 最も印象に残っているのは、「何より、私にとって大切なのは私が持っているものであって、私が失ったものではないということを学びました」という言葉。

◆ パラリンピックの理念と競技者の姿

 夢も希望も何もかも失ってしまったと絶望の淵に沈んだとき、パラアスリートとして陸上に取り組むことで、生きる力を取り戻した彼女は、その後、アテネ・北京・ロンドンのパラリンピックに出場するまでになった。東日本大震災直後には、被災した故郷の宮城県気仙沼市へも足を運び、子どもたちをスポーツの力で元気づける活動をしたという。

 「大切なのは持っているものであって、失ったものではない」。パラリンピックの理念に通じる、その言葉の意味するところが、目の前で繰り広げられているパラリンピアンたちのプレーからより深い真実味を持って心に響いてくる。

 東京大会のテーマには「レジリエンス(逆境から立ち直る力)」が掲げられている。谷選手は開会式で日本選手団の旗手を務めていた。彼女はトライアスロンに出場した。長いレースの最後を笑顔で締めくくり、「ここまでの経験が大きな宝物」と振り返った。

 コロナ禍で多くのものが失われた今、谷選手をはじめ、パラリンピアンたちが全力で競技する姿からどんなメッセージを受け取れるかは自分次第だが、それを自分自身の「逆境から立ち直る力」にしたいと思っている。

 

WEB面接、採用担当は万全か

第7285号  2021年7月8日(木) [印刷用PDF

◆ オンライン、企業側の対策は

 「面接官の表情がわかりづらく、伝わっているか不安だった」「質問が聞き取れなかったが、失礼と思い、聞き返せなかった」…。学生にWEB面接で不安に思ったことを尋ねると、このような声が返ってくる。

 学生には、オンラインの特性を踏まえた面接での伝わる声と話し方、表情や姿勢について指導をしているが、向き合う採用担当者のオンライン対策は万全なのだろうか。

 企業の採用担当者にとって、WEB説明会やWEB面接で、自社の魅力をアピールし、良い人材を見極め、獲得することは、厳しい状況下で自社が生き残るためにも気を抜けない真剣勝負の場であると思う。

◆ 熱意と魅力が伝われば

 WEB面接は、応募者から「会社の雰囲気が分かりにくい」という声もあるが、これは企業側にとってはメリットとも言える。比較的、小規模な企業であっても社屋の規模や設備などに応募者側の判断が左右されず、企業の第一印象の窓口となる採用担当者の熱意やそこで語られる企業の魅力がしっかり伝われば、心を動かすことができるからだ。

 しかも、リアルな場でのプレゼン力の差より、オンラインでのプレゼン力の差の方がずっと縮めやすい。例えば通常の会社説明会では、プレゼンの内容だけでなく、話し手の視線や表情、服装、立ち居振る舞い、声の力強さ、テンポなども伝わり方に少なからず影響するが、WEB説明会では姿が見える範囲がバストショット(胸から上の撮影)からウエストショット(腰から上の撮影)程度に限られる。この範囲の身だしなみ(襟元のしわ、ネクタイのゆがみは特に目に入るので注意)と表情、姿勢に気を配ればよい。また、声の力強さで相手を引きつけることより、伝えたいキーワードが相手の印象に残るように声の表情を工夫する方が効果的だ。

◆ WEBでの明確な伝え方

 WEB会社説明会や面接での伝わる話し方とは、まず、伝わり方にタイムラグ、ニュアンスのズレがあることを前提に、明確な伝え方を心掛けることだ。

 話す速さは通常よりも少しゆっくり、普段よりやや口を大きめに開け、滑舌を意識して、丁寧に話すと良い。また、音として紛らわしい言葉(「試作」と「秘策」など聞き間違うような言葉)は使わず、別の言葉に言い換えて誤解を避ける。できるだけ一文(主語から述語まで)は短く、40文字程度に収め、語尾「です、ます」まできちんと言い終えるように話すと信頼感が演出できる。

 そして、重要な言葉、会社の理念や数字などは、強い声で話すのではなく、他の言葉よりもゆっくりと抑揚をつけ、間を取って話すと、強く印象に残る。そう、あたかもその言葉に声でアンダーラインを引くようなつもりで。

 また、面接で質問する際は、「では、次に学生時代に打ち込んだことについて聞かせてください。あなたが、学生時代に打ち込んだことは何ですか」と2段階で質問を投げかけることで、答えるタイミングを相手にわかりやすく示す配慮を。話を聴くときは表情を見ることも重要だが、後で録画を見ることもできるので、WEBカメラから大きく目をそらすことなく、うなずきや表情、ジェスチャーなどは普段よりも大きくし、真剣に聴いているという誠意を示すことで、相手の本質を引き出すことができる。採用担当者も「見られている」「評価されている」ことを忘れずに対策を。

 

違和感が心に刺さる

第7244号  2021年5月17日(月) [印刷用PDF

◆傷つける発言でなく安堵

 「川邊先生の言葉がたくさん心に刺さりました」。講演の後、そう声を掛けられたとき、背筋を冷たいものが流れた。言葉が過ぎたところがあったのか、知らずにこの方を傷つける発言をしてしまったのだろうか、と。ところが、続きを聴くと、むしろ「心に染みた」「心に響いた」という意味だとわかり、安堵(あんど)した。 

 「心に刺さる」。数年前から引っ掛かっていた表現だ。初めは映画か本か、何かのCMコピーで目にしたように思う。確かにインパクトのある表現だった。 

 三省堂によると「刺さる」は2015年の新語だそうだが、瞬く間に市民権を得て、やがて「心に」を省略して単に「刺さる言葉」「刺さる映画」などと使われるようになっていった。もちろん、肯定的な意味で「感動する」「共感できる」などと同義語の位置付けになっている。 

 ◆とげ、刃物が突き刺さる語感 

 同じように何かしら痛みを伴う表現であっても、「心を打たれる、揺さぶられる」などは「雨に打たれる」「風に揺さぶられる」などにも用い、さほど違和感はない。また、「言葉に刺激を受ける」「ハートを射抜かれる」なども痛いとは思わないが、「刺さる」はどうしても「とげや刃物が突き刺さる」様子を連想させて、見聞きするたび、胸がチクチクするように感じていた。 

 「心を打たれる、揺さぶられる」だと、その人自身が選択するプロセスを経て、その状態を受け入れているように思えるが、「心に刺さる」は無防備で無力な自分に浴びせられた強い衝撃のような語感があるからかもしれない。 

 ただ、言葉は世相を反映して変わっていくものだ。これまでは自分では使わないものの、これも若者言葉の一つ、とやり過ごしてきた。だが、自分が発した言葉に対し、面と向かって「心に刺さった」と言われた冒頭の件では、最初に受けた「自分の言葉がこの人の心を刺した」というショックが大きく、しばらく動悸(どうき)が収まらないほどで、改めて考えさせられた。 

 「言霊」と言われるように、言葉は人から発せられ、そこには心が宿っている。表現を選ばないと、相手の心に響かないばかりか、本当に「突き刺す」行為になってしまわないか。 

 ◆言葉の感覚が鈍っていないか

 新型コロナウイルス感染拡大を受け、昨年来、多くの言葉が生まれた。「コロナ禍」「ステイホーム」「ソーシャルディスタンス」「ワーケーション」…。中でも「3密」は昨年の流行語大賞にまでなったが、変異株の拡大でさらなる「3密」対策の徹底を呼び掛ける中で、実は必ずしも正しく国民に理解されていたのではないことがわかった。「3密」は危ないが、「1密」「2密」だから大丈夫だと解釈して行動した結果、クラスター(感染者集団)が発生したケースが次々判明したのだ。言葉が一人歩きしていくうちに、受け手の都合の良いように意味が変わっていったのだろうか。 

 「まん延防止等重点措置」を縮めた「まん防」は非難が出てすぐに使われなくなったが、最初に聞いた略語が頭に残ってしまった。「まん延防止等~」と言われても、頭の中で「まん防」と置き換えてしまうから厄介だ。「何のためにその言葉を発するか」より「インパクトを与えればいい」という視点で言葉を選んでいないか。言葉に対する感覚、受け取る相手への感性が鈍ってはいないか。「一輪の花を選ぶように言葉を贈りたい」。最近、ふっと浮かんだこの言葉は自分への戒めとしている。

 


<バックナンバー>

タイトルをクリックするとPDFでご覧いただけます。

第7244号 2021.5.17 違和感が心に刺さる
第7202号 2021.3.18 言葉は澄んでいるか
第7161号 2021.1.28 リモート授業の忘れ物
第7117号 2020.11.19 見事!カマラ・ハリス氏のスピーチ
第7077号 2020.9.28 菅首相のキャラと話し方
第7033号 2020.7.30 心に響かない伝え方
第6981号 2020.5.22 オンライン映えする話し方
第6936号 2020.3.18 パニックを抑えたリー首相のメッセージ
第6886号 2020.1.9 安倍首相の話しぶり、5年前と比べると
第6841号 2019.11.5 クレーマーはこうしてつくられる
第6784号 2019.8.19 笑顔のシンデレラに学ぶプロ意識
第6690号 2019.4.15 聴衆を惹きつけて離さないために
第6734号 2019.6.12 トランプ大統領の「Reiwa」スピーチ
第6642号 2019.2.7 違和感満載の言い回し
第6586号 2018.11.14 高齢者に聞き取ってもらうには
第6535号 2018.9.6 「ハラスメント」と言われないために
第6483号 2018.6.28 女性活躍へ話し方改革を
第6432号 2018.4.18 ザッカーバーグの謝罪に見るスピーチ力
第6388号 2018.2.14 肝心なのはコミュニケーション力
第6352号 2017.12.18 共感を呼ぶ言葉、反発を呼ぶ言葉

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