川邊暁美のショート・コラム

「時事通信社」発行の”コメントライナー”に話し方やコミュニケーションについて執筆しています。

「ハラスメント」と言われないために

第6535号 2018年9月6日(木)[印刷用 PDF

◆話し方や態度が誤解を生むことも

 相変わらず、パワハラ・セクハラ問題が後を絶たない。「そういう意味で言ったのではない」「威圧的な言い方はしていない」など、言った言わないの泥仕合になるケースも多い。自分たちの人権意識や古い体質が現代社会のスタンダードとかけ離れているという認識がないとすれば、早急に改めないと、当事者間だけでなく組織にとって重大なダメージになることは言うまでもない。

  ここで取り上げたいのは、ハラスメントとはいかないまでも、日々のコミュニケーションにおいて、話し方や態度によって相手に威圧感を与えていたり、真意を誤解されることもあるということだ。自分ではそんなつもりでなかったとしても、コミュニケーションは「伝わったこと」がすべて。肝心なのは相手がどう受け止めるかだ。

◆気をつけたい大声、早口、詰問調

  相手の印象を左右するのはまず「声の大きさ」。相手との距離感や空間に合った大きさだろうか。必要以上の大声は相手を委縮させてしまう。体育会系の部活動経験などから大きな声で話すのが身についている人は特に注意が必要だ。近くで、太い大きな声で話されると怒鳴られているようなストレスを感じる人もいる。そして、「話す速さ」。相手に有無を言わせず、自分の言い分を自分のペースで言い募ってはいないだろうか。伝えるべき内容や相手の理解度に意識を向けて、相手に伝わっているかを確認しながら話すと、一方的にならずに済む。

 また、相手に注意を与えたり、反対意見を述べるときなどは、知らず知らずに感情が高ぶってくることがあるかもしれない。そういう場合は「丁寧な言葉遣い」を心掛けると、感情におぼれず、冷静に話すことができる。たとえば「どうなっているんだ」と相手の行動を批判するのではなく、「どういうことがあったのか説明していただけますか」と、言葉遣いを変えることで、客観的な視点に立つことができ、事実と感情を分けて話すことができる。

 同時に「語尾の声の調子」にも気を付けたい。叩きつけるような早く強い調子で話すと、言葉遣いは丁寧でも相手を追い詰めるニュアンスになってしまうからだ。語尾に行くにつれて、ゆっくりと話すようにすると詰問調にならない。

◆「威嚇」になりかねない何気ない動作

 「視線や表情、姿勢、動作」など非言語要素にも配慮が必要だ。自分だけが立って相手を見下ろす、逆に、相手を立たせて自分は座っているなど、上から視線、下から視線は、お互いの視線が通わず、対決するような心持ちになりがちなので避けたい。あごをしゃくるような顔の動き、腕や足を組む、机を指で叩く、舌打ちなど、何気ない癖であっても、威嚇しているように思われることがある。

  通勤電車の窓に映る自分の顏をふと見たとき、あまりの不機嫌な表情に愕然とし、慌てて表情を整えた経験はないだろうか。仕事でのコミュニケーションでも、真意が伝わらず誤解されることがないように、自分が発している声や話し方、表情などが相手視点に立ったときにどうかセルフチェックし、気を配るようにしたい。

(かわべ・あけみ)

女性活躍へ話し方改革を

第6483号 2018年6月28日(水)[印刷用 PDF

◆「自信ない」は経験の差にすぎない

 セクハラ・パワハラはじめ、組織の風土慣習に根ざす問題が表出する度に、意思決定の場に女性が参画することが、まかり通ってきた組織内での常識を改革する契機となるはずと期待している。

 「女性活躍推進法」施行から2年が経ち、男性の牙城とされてきた場で女性の姿を目にすることも増えた。喜ばしい一方で、「会議で声が聞こえづらいと言われた」「説得力に欠けるのではないかと心配」「人前で話すのがとにかく苦手」など、女性から相談を受けることも少なくない。中にはキャリアも十分にあり、業務に精通しているのに「女性は情緒的、男性は論理的」という通説を信じ、「男性のように話がうまくまとめられない」と自信を持てない新任管理職の女性もいた。女性と男性で論理的な能力に差があるのではなく、与えられた環境や担ってきた役割の違い、経験の差に過ぎない、と筆者は伝えている。

◆「呼吸」と声の高さを意識しよう

 性別にかかわらず、役割や立場が変われば、発言の立ち位置や責任の大きさ、影響力や注目度も変わる。選ぶ言葉や話し方もその器にふさわしいものに変えなければいけない。当然、戸惑いもあるものだ。責任のある立場についた女性にまず、アドバイスするのは「聞いてもらえる声にすること」だ。そのためには話す前に、声のエネルギーとなる「呼吸」を整えよう。軽く息を吐き、鼻から吸って、一呼吸おいて、ゆっくりと話し始めると安定した声で話せる。呼吸が整うと自然と気持ちも静まり、頭もクリアになってくる効果もある。

 次に「声の高さ」だ。普段の声とは違うトーンで電話に出る人がいるが、会議やプレゼンで無理な作り声で話すと喉に負担が掛かり、長く話すことができない。また、不自然な声で話されると聞き手も落ち着かないものだ。「落ち着いた(いつもよりやや低めの)聞きやすい」高さを心掛けよう。声を胸に響かせるように意識すると良い。

◆自分の声を聞きながら自然な間合いで

 そして「速さ」。意気込んで早口になると、ヒステリックな印象を与えたり、余裕のない人だと思われるなど評価を下げてしまう。NHKのニュースでアナウンサーが話す速さを参考に、1分間に300~330字前後の速さを目安にしたい。さらに、キーワードの前後には間(ま)を取るようにすると、キーワードが相手の印象に残りやすくなる。話しているうちに息が上がってくる、声が上ずってくる、という人は、そもそも話そうとしている情報が多すぎないか、確認してみよう。

 また、「一文をコンパクトに35~40文字程度にまとめる」ことで、メッセージが明確になるばかりでなく、息に余裕があるので語尾で声が消え入ることもなく、説得力が加わる。

 完璧に話したいからと手元ばかり見ているのはNG。信頼関係を築くためには、話のポイント、話し始めや話題の転換部、接続詞を話す際に顔を上げ、アイコンタクトを意識し、「では、次に」と少し声を前に出すように話すとメリハリがつく。

 信頼と納得を得る話し方のために効果的なのは「自分の声を聞きながら話す」ことだ。話している自分の声を耳で受け止めるようにすると、自然な速さと間合いで話すことができ、伝わりやすい。自分の考えを伝えられる能力は「生きる力」だ。ぜひ磨きをかけてほしい。

(かわべ・あけみ)

ザッカーバーグの謝罪に見るスピーチ力

第6432号 2018年4月18日(水)[印刷用 PDF

◆ 個人情報流出で揺れるFB

 世界で20億人以上が利用する交流サイト・米フェイスブックの最高経営責任者(CEO)マーク・ザッカーバーグ氏が、偽ニュース拡散や個人情報の不正流出問題について米上院公聴会で謝罪した。

  創業からわずか13年間で年間売上高約4兆3000億円の巨大企業に成長したフェイスブックだが、ザッカーバーグ氏本人が自社を「理想主義で楽観主義の会社だ」と述べた言葉に象徴されているように、 世界中の人が繋がることができるコミュニティーサイトを作る、という夢を実現した一方で、事業の根幹である利用者の保護については、先読みをした対策がなされてこなかった、その認識の甘さが招いた結果だ。

◆ 一歩も逃げない覚悟

 どのように責任を取っていくのか、この問題がどのように発展していくのか、今後も世界の注目が集まるところだが、実は、筆者がこの問題に関心を持ったのは、ニュースで目にしたザッカーバーグ氏の 謝罪に心を動かされたからである。国会での「森友・加計」「自衛隊日報」問題など不毛な答弁シーンが流れる中で、そのシーンはとても印象的だった。

 「この会社を始めたのは私で、私が運営してきた。そこで起きたことは私に責任があります」と、姿勢を正し、真剣な表情で顔を上げ、まばたきもほとんどせず、正面だけでなく左右の議員たちにも視線を向けながら、よく通る声で、間(ま)を取りながら自分の言葉で語るザッカーバーグ氏の姿からは、「一歩も逃げないで責任を果たす」覚悟が伝わってきた。

◆ 卓越した発信力、構成力、外見力

 そこで、ザッカーバーグ氏のスピーチ力はどの程度なのかと、昨年5月、ハーバード大学卒業式で祝辞を述べた際のスピーチ動画を見て、筆者がスピーチ・プレゼン指導をする際に使っている「心を動かす3要素」から分析してみた。

 ①「発信力」(声と話し方)は聞き手の関心を惹きつける重要な要素。ザッカーバーグ氏の声には張りがあり、語尾まで勢いが衰えず、力強く言葉を発しており、間を取ることで聴衆の反応も引き出している。

 ②「構成力」(内容)。導入で自らの思い出を合格通知を受け取る瞬間、ハーバードでの最初の講義、初めての友人・・・と心地よいテンポで語っていき、その場にいる卒業生・両親たちと共感しあえる世界を最初に作り上げることに成功している。 「人生の目的を見つけるだけでは十分ではない、誰もが目的意識を持つ世界を創造することが自分たち世代の挑戦である、そのために3つの方法がある」と話の進め方も巧みだ。無駄な言葉がなく、意味の含有率が高いため、聞き手に気を抜かせることなく、ぐいぐい引き込んでいく。

 ③「外見力」(表情・姿勢)。上半身がまったくぶれない。右手を上げたり、両手を広げたりといったジェ スチャーと笑顔は自信に満ち溢れ、説得力を増す効果を上げている。

  この卓越したスピーチ力は、自ら立ち上げた会社をここまでにするために、様々な場で熱く自分の思いを語ってきた、その結晶であるのかもしれない。今回、取り返しがつかない事態を招いてしまったが、この人は必ず事態を収め、信頼を取り戻すだろう。そんな気にさせられた。

(かわべ・あけみ)

肝心なのはコミュニケーション力

第6388号 2018年2月14日(水)[印刷用 PDF

◆安全神話も「勘違い」で崩れる

 昨年12月、博多発東京行きの新幹線のぞみの台車に亀裂が入っていることが、名古屋での点検で見つかった。現場と指令の認識のずれから危険性が共有されず、運行を続けてしまったのだ。名古屋駅で運転を取り止めたときには、脱線事故が起こりかねない危険な状態であったという。

 JR西日本では「新幹線の運行システム全体に問題があった」と謝罪し、台車の異常を検知できるシステムの導入や運行停止の判断基準の明確化、異常事態の映像・音声をタブレットで共有できるようにするなど対策に取り組むとしている。しかし、マニュアルを追加したり、システムやツールの強化などハード面での対策だけで、再発防止策は万全と言えるのだろうか。
この問題で露呈したのは、日本の技術力の象徴でもある新幹線の「安全神話」がこんなにお粗末なヒューマンエラー「勘違い」でもろくも崩れる危険にさらされているということだ。

◆たまたま受話器を離したために

 出発直後から異音や異臭、もやなど異常の兆候が車掌や乗客から指摘されたのを受けて、乗り込んだ車両保守担当社員が、東京の指令所に「新大阪駅での点検を提案」したが、電話を受けた指令員には伝わらなかった。たまたま受話器を耳から離していたため聞き逃したという。

 保守担当は「点検の提案が指令に伝わった。点検に向けて調整してくれている」と思い、指令は「保守担当が点検を主張しないので運行に支障はない」と判断したまま、お互いの認識を確認し合うことはしなかったというのが事実であるなら、コミュニケーションスキルの欠如が問題を大きくしたと言わざるを得ない。

◆入念に再確認、認識を共有

 分かりきったことだが、「電話」では、「対面」よりも誤解が生じやすい。同じ事象を見ているわけではないので「何がどのような状態であるか」、言葉で明確に伝え、共通認識の土台を作らなくてはいけない。一方的に自分のペースで話すのではなく、話の「項目」を立てながら「ここまでは伝わっているか」を確認しながら話を進めていく。

  聞き手も積極的に情報を聞き取る姿勢で対応するべきだろう。「聞いている、理解している」ことを示す「相づち」も必要だ。「はい」「わかりました」「この点はどうですか」「もう一度確認させてください」「承知致しました」「ここまでのことをまとめると」など、自分が受け止めたことは「このように聞いた」と伝え返す。わからないこと、よく聞こえなかったことは確認する。抜けている要素は質問する。最後にお互いの理解を確認し合い、次に何をするか確認して電話を切る。

  これは言うまでもない、仕事をする上での最も基本的なコミュニケーションスキルである。「基本的なことをきちんとする」ことが、社員一人ひとりが責任を果たすために、また余計な危機を招かないためにも大切だ。システムでカバーすることばかり優先させていては、その隙間を突く事態が起こったら同じことの繰り返しだ。様々な現場で同様のコミュニケーションギャップから無用なトラブルが起こっていないか、心配でならない。

(かわべ・あけみ)

共感を呼ぶ言葉、反発を呼ぶ言葉

第6352号  2017年12月18日(月)[印刷用 PDF

◎失言の上塗り 根底にあるのは

 2017年の流行語大賞の一つに、森友・加計問題で注目を集めた「忖度」が選ばれた。「忖度」は「察しの文化」である日本ならではの言葉でもあり、本来は悪いイメージの言葉ではないのだが、今年、多用されたシーンの影響で「強い者の意向を慮って異例の配慮をする」というニュアンスで定着した感があり、うっかり使えない言葉になってしまった。

 今年も政治の世界から世間を騒がせる言葉が多く飛び出した。失言・暴言も多かった。4月に辞任 した今村元復興大臣。「(原発被災者の避難先からの帰還問題は)自己責任だ」「(記者に対して)うるさい」と暴言を放った激高記者会見で注目を集める中、「(震災が起きたのが)東北で良かった」とさらに許されない言葉を口にし、更迭。政権に打撃を与えた。

 なぜ、わざわざ失言の上塗りをしてしまったのか。根底には「本人がそれを失言だと自覚していない」ことと「自分自身の立場がわかっていない」という「世間との感覚のズレ」がある。失言した後に慌 てて「そういう意味ではなかった」などと釈明しても、逆に、人権意識の希薄さや言葉に対する鈍感さ、責任の無自覚を露呈することになってしまう。

◎大切なのは「目線」の位置

 言葉の選び方一つで流れが変わってしまったのが、先の衆院選で「希望の党」を率いた小池都知事だ。小池都知事は、これまで言葉の使い方が実に巧みであった。古くは環境大臣時代の「クールビ ズ」、防衛大臣時代の「女子の本懐」。そして、都知事になってからの「守るべきものは断固として守り、変えるべきものは勇気を持って変える」「都民ファースト」など、その場に応じて、スマートな語感の言葉あり、力強いリーダーシップや勇気・覚悟を感じさせる言葉あり、と使い分けながら、多くの人の印象に残る、新鮮で共感を得る言葉を発信してきた。その言葉が受け止める側にどう取られるか、「相手目線」に立ち、受け止めやすいポジティブな言葉選びがなされているのだ。
 が、「排除」はその言葉を発する自分目線に立った言葉だ。上から目線のネガティブな言葉であり、反発を生んでも仕方がない。

◎「謙虚」「丁寧」も押しつけでは…

 違和感を抱かせる言葉と言えば、今年も不祥事を起こした組織のトップによる記者会見が多かったが、冒頭に「この度は大変なご心配を掛け…」とお詫びするのはいかがなものか。「ご心配」では なく、まず「ご迷惑」とするのが謙虚な反省の弁であると思う。

 「謙虚に」を国会で多用したのが安倍首相。森友・加計問題に対して「謙虚に」「丁寧に」と繰り返し 強調していたが、「謙虚」も「丁寧」も押しつけるものではなく相手に感じてもらうもので、自分からアピールするのは逆に傲慢な印象を与えてしまうので気をつけたい。

 言葉は受け止める相手次第。真意と違っていたとしても相手が受け止めたこと、伝わったことが全てだ。言葉の表現を吟味する際に「自分目線」ではなく、「相手目線」で考えて選ぶことが大切だ。それこそ「忖度」か。

(かわべ・あけみ)


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