「時事通信社」発行の”コメントライナー”に話し方やコミュニケーションについて執筆しています。
「説明責任」は死語? 知らんけど
第7665号 2022年11月21日(月) [印刷用PDF]
◆救いの流行語大賞候補
日本は一体どうなってしまったのか。収束しないコロナ禍、膨らむオリンピック汚職、旧統一教会と政治家を巡る問題、失言大臣…。そんなニュースに触れるたびに力も希望も奪われていくような気になる。
2022年に何か明るいことはなかったのだろうか。毎年12月初めに発表される「現代用語の基礎知識選ユーキャン新語・流行語大賞」の候補に挙げられている今年の世相を表す30語を見てみた。初めて見る言葉も多いのが情けないが、かろうじて知っていた中には、「国葬儀」「キーウ」「宗教2世」などと並んで、野球からの「大谷ルール」「令和の怪物」「村神様」「きつねダンス」などもあり、ほっとする。
野球関係では「青春って、すごく密なので」もノミネートされている。
夏の甲子園で初めて東北に優勝旗をもたらした、仙台育英の須江航監督のこの言葉は印象的だった。同校野球部員や甲子園球児だけでなく、コロナ禍を生きる全国の高校生に拍手を送ってほしい、という温かいエールは大いに共感を呼んだ。
◆いまだに「ルッキズム」
筆者が30語の中で注目したのは「ルッキズム」(外見至上主義)だ。今年の参院選では、男性議員が立候補する新人女性の事務所開きのあいさつで「顔で選んでくれれば1番を取る」と発言。「女性蔑視」「外見差別」と与野党から批判され、謝罪、撤回した。国連の持続可能な開発目標(SDGs)でも「多様性」が重要なキーワードとされているというのに、特に女性に対して、若くて美しいことをよしとする価値観がいまだ社会にまん延していることにあきれる。
そして「ルッキズム」は若い世代においてもSNSの影響で加速している感がある。3年ぶりに紅葉の名所に行ったら、レンタル着物をまとった若い女性やカップルがあちこちで自撮り中。ポーズも表情も素人とは思えないくらい決まっている。映えスポットで自撮りした写真をインスタグラムにアップしてフォロワーを増やすことに並々ならぬ情熱を注いでいる様子が見て取れた。スマホカメラは高性能で強い味方。さらに美しく加工してくれるアプリで盛り盛りに(効果をプラス)するのだそう。
◆空しく響いた言葉
「インスタ映え」は2017年の流行語大賞。SNS関連用語としては「タグる」「バズる」などをよく聞くが、新語としての旬は既に過ぎているらしい。最近使い方を覚えた「推し活」も昨年の流行語大賞にノミネートされていた。中高年が認識する頃にはもう古いということか。
筆者が20代の頃、50代の上司から、とうに廃れている言葉について「〇〇って、はやってるんだってね」と聞かれ、「そうみたいですね」と笑顔で調子を合わせていたことを思い出す。ちなみに「忖度(そんたく)」は「インスタ映え」と並んで2017年の流行語大賞だった。
関西人として嬉しいのは、ごく普通に世代を超えて使われてきた「知らんけど」が全国区になり、今年ノミネートされていることだ。断定的に小利口なことを言ったときに照れ隠しや場を和らげる意味で「知らんけど」と付け加えたり、自信のない発言の後に「知らんけど」とぼかしたりする。
そういえば、30語の中には「丁寧な説明」もあった。確かに繰り返し使われ、そして空しく響いた言葉だった。知らんけど。
コミュニケーション勘を取り戻せ
第7622号 2022年9月27日(火) [印刷用PDF]
◆オンラインから対面へ
エリザベス英女王の国葬は、参列者、関係者が誰一人、マスクをつけていなかった。世界で進む「脱マスク化」を目の当たりにし、ウィズコロナが次のフェーズに進んでいるのを感じた。
日本でも3年ぶりの「行動制限」なしのお盆休みの後、感染者数は爆発的に拡大したが、もはや「緊急事態宣言」等の気配はなく、既に顔の一部となったマスクとともに日本式のウィズコロナのライフスタイルが定着してきている。
オンライン、ハイブリッドと混在しながらも、対面でのコミュニケーションの機会が戻ってきた。
筆者に寄せられる相談も一昨年、昨年は、オンラインでのコミュニケーションが主流だったが、対面コミュニケーションの相談が増えた。一見、コロナ禍前と変わらない一般的な悩みではあるのだが、コロナ禍で「コミュニケーションしたくてもできない」時期を経たことで、コミュニケーション力に自信が持てなくなり、久しぶりに会った相手との距離感や場の空気感などを図りかねてしまう、という事情もあるようだ。試合勘ならぬコミュニケーション勘が鈍ったとでも言おうか。
◆リアルな職場での声掛け
ケース1 「職場でどのように声を掛ければよいのか分からず、聞きたいことも聞けない」
在宅勤務の場合、オンラインで会話をするなら、お互い同じ目的でその時間向き合っているが、リアル職場ではちゅうちょしてしまう、というのだ。アドバイスとしては、一緒に仕事をしていれば相手の様子が分かる。余裕がある時間帯を選び、「ただ今お時間よろしいでしょうか」と声を掛けるか、あらかじめ相手の時間を予約しておくのもよい。「〇〇の書類を見ていただきたいのですが、お手すきのときに15分ほどお時間をいただけないでしょうか」と用件を伝え、相手の都合を聞くことで、お互いに段取りがつけやすい。
ケース2 「口の利き方が下手になったと感じる。先日、ようやく会えた親に『で、いつ帰るの』と言ったら、『すぐに帰るわよ』とムッとされた」
孫に会いに来てくれた両親を迎えて最初のやり取りがこれで、一瞬気まずくなったとのこと。こういうときは、まず自分の率直な気持ちを先に伝えることだ。「会いに来てくれて嬉しい」。これを端折ってはいけない。滞在予定を確認するなら、「いつまでいられるの。ゆっくりしていってほしいな」などと、言葉足らずにならないように。
◆笑顔でうなずき、関心を伝える
ケース3 「職場の昼休みに気の利いた会話ができず、気を使って疲れる」
これは、黙食で話すことを控えてきた反動か、話ができる状況でも会話が弾まないという悩みだ。気負わず、良い聞き手に徹することで話を盛り上げよう。
「へぇー」「そうなんですか」「面白そう」「大変でしたね」「良かったですね」「それからどうなったんですか」…。マスクをしていても、笑顔でうなずきながら反応を示すことで、関心を持って聞いていることを相手に伝える。演技ではなく、相手の話に耳と心を傾ければ、自然とうなずき、相づちを打つものだ。
「オンラインの方が気楽」という声も聞く。「オンライン面接の方が緊張しない」という就活生もいる。オンラインは今後もさまざまな分野でその特性を踏まえて活用されれば良いと思うが、コミュニケーションは「気楽」だけで済ましてはいけない。
羽生結弦が発した言葉
第7583号 2022年8月4日(木)[印刷用PDF]
◆「有言実行」のイメージ
言葉は自分を突き動かす原動力になるが、時に自身を追い込むこともある。この人の言葉を聞くたびに気に掛かっていた。2014年ソチ、18年平昌の冬季五輪の金メダリストで、実力・人気ともにフィギュアスケート界をけん引してきた羽生結弦選手。
先日の記者会見での「これからはプロのアスリートとしてスケートを続けることを決意した」という言葉には、「引退」ではなく、活躍のステージを変え、さらなる高みを目指してスタートを切る、という覚悟が感じられ、彼らしい言葉だと感じた。
「有言実行」の人というイメージがある。東日本大震災で被災した故郷・宮城県に希望と勇気をもたらす使命を自らに課し、次々に金字塔を打ち立てるたびに、地元で応援してくれる人をはじめ、世界中のファンや自分を支えてくれる人への感謝の言葉を常に口にしていた。
男子フィギュアの歴史を塗り変えていく活躍の一方で、けがや故障にたびたび悩まされてきた。平昌五輪では右足首の故障を乗り越え、2大会連続の金メダルに輝き、23歳で個人としては最年少で国民栄誉賞も受賞したが、満身創痍(そうい)で臨んだ北京五輪では、こだわり続けてきたクワッドアクセル(4回転半ジャンプ)が決められず4位。これが最後の競技となった。
◆「自分で自分を追い込んだ」
彼が発する言葉は、常に注目されてきた。「絶対王者だと自分に言い聞かせた」「自分で自分を追い込んだ。重圧と戦った」「誰からも追随されないような羽生結弦になりたい」「モチベーションは4回転半成功だけ」「負けは死と同然」―など、負けん気の強さと責任感から来るのか、力強くいちずな言葉がメディアをにぎわしてきた。
が、いつの頃からか、どこか痛々しさを感じていた。その言葉が彼自身を追い込んではいないか、そこまで背負わなくても良いのではないのか、と。
特に4回転半に固執する言動を見るにつけ、けがをするリスクも大きく、成功する確率が高くない大技は回避して、金メダルでなくても完成度の高い演技を見せてほしいと思った。
◆少年時代からの夢
迎えた北京五輪。フリーに先立つショートプログラムでの失敗を振り返って「氷に嫌われちゃったかな」とのコメントは意外だった。失敗があっても、淡々とその原因も修正の仕方も分かっているというコメントをしてきたのが羽生選手だったが、このときはどうにもコントロールできない状態であったのだろう。フリーが終わった後、「すべて出し切った。報われない努力だったかもしれないけど」と声を震わせた姿に、「もう荷物を降ろして楽になってほしい」と思わないではいられなかった。
だが、今回の会見報道の中で「4回転半は少年時代からの夢」と知り、メダルではなく、夢を追っていたのだと合点がいった。スケートが楽しくて、新しい技を覚えては次の技に挑戦してきた少年の頃からの夢が「4回転半ジャンプを飛ぶこと」。だから、リスクを冒しても追い続けてきたし、プロになっても「アスリート」だから挑戦し続けるのだ。大リーグで活躍する大谷翔平選手とは同学年の27歳。プロとしての羽生結弦さんにはスケート少年の気持ちに戻って、伸び伸びと挑戦を続け、スケートの神様に愛される姿をこれからも見せてほしい。
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