川邊暁美のショート・コラム

「時事通信社」発行の”コメントライナー”に話し方やコミュニケーションについて執筆しています。

言葉は澄んでいるか

第7202号  2021年3月18日(木) [印刷用PDF

◆マスク越しでも明瞭に

 今やマスク着用は社会生活の必須条件となり、「マスク越しでも明瞭に言葉が伝わる話し方を教えてほしい」という相談も頻繁にされる。

 マスクで顔の半分以上が隠れてしまうと表情が読めず、誤解を生むことになりかねない。そのため、言葉足らずにならない、小まめな説明を心掛ける。加えて、うなずきやジェスチャーなどで意味を補うこと。また、声がマスク内にこもるため、滑舌を意識し、相手の反応を確認しながら、ゆっくりめに話すことなどをアドバイスしている。

  マスクが習慣になったことで、話すときには声と言葉を確かめながら発しないと相手にきちんと伝わらないということを意識する人が増えた。一方で、マスク越しであっても、しっかり説明責任を果たすべき場で、答弁者の言葉の切れ味が鈍かったり、論点をずらしたりするような例も多く見受けられる。

◆女性政治家・官僚こそ悪しき慣習打破を

 総務省の接待問題で名前が浮上した元大臣や幹部たちの「会食はしたが、会費制で折半したから接待ではない」「仕事の話はしておらず、懇談だった」などの発言は、言葉に重みがなく、どこか言葉遊びのようにさえ響く。しかも、女性初の〇〇という旗を掲げて邁進してきたであろう政治家や官僚の口から、そういった発言が出ると失望を禁じ得ない。

 くしくも、東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗前会長の女性差別的発言に対して、SNSでも「#わきまえない女」の声が上がるなど、今こそ旧態依然とした慣習や性別による偏見、役割分担意識を改めるために、社会を挙げて行動しようという機運が高まっているときである。

 「日本は外圧を受けないと変われない」とは黒船来航の話ではなく、常に思うようにジェンダー平等が進まない日本の現状を嘆いて言われてきた言葉である。今回、世界中から非難を招いたのを機に、一気に改革が加速するかと期待していたのだが、現在、意思決定の場にいる貴重な女性が、従来の悪しき慣習に同調してしまっていたとは…。

◆「言葉の一番ダシ」

  3月8日の国際女性デーに合わせて発表されたイギリスの経済誌「エコノミスト」による「女性の働きやすさ」ランキングでは、日本は経済協力開発機構(OECD)加盟29カ国中、28位。企業における女性管理職や衆議院の女性議員割合が低いことが要因だ。

 さまざまな意思決定の場への女性の参画を増やすことは喫緊の課題と言えるが、ただ数を増やすだけでは社会は変わらない。女性が参画し、これまで当たり前とされてきた社会の構造、慣習や働き方、価値観などが見直す議論が交わされることで、女性だけでなく多様な人が力を発揮できる、持続可能な社会の実現に近づくはずだ。そのためには、「言葉に責任を持つ」「わかりやすい言葉で伝える」ことが基本ではないだろうか。

 長田弘(おさだ・ひろし)氏の詩「言葉のダシのとりかた」では、言葉をかつおぶし、意味を昆布に例えて、言葉を透き通るまで正しく削り、厚みのある意味と合わせ、アクを丁寧に掬(すく)い取って、残った「言葉の澄んだ奥行き」、それが「言葉の一番ダシだ。言葉の本当の味だ」と表現されている。

 少しの濁りもない、澄んだ言葉、深い意味が込められた言葉を責任ある立場の人には選んでいただきたい。また、自分自身も心掛けて発信していきたいと思う。

 

リモート授業の忘れ物

第7161号 2021年1月28日(木) [印刷用PDF

◆コロナ禍で模索、SNSで情報共有

 コロナ禍で模索されてきた大学の2020年度の授業が終わろうとしている。筆者もコマ数は多くないが、いくつかの大学に登壇しているため、遠隔授業を行うよう通達された当初はパニックだった。
 そんな中、学生の安全そして学習の機会と質を守らなければならない使命感から、所属や専門を超えて、昨年3月末に立ち上がった大学教員たちのSNS(インターネット交流サイト)グループに大いに助けられた。現在は2万人を超えるグループになっており、国内外の大学の動向や学生支援、授業方法など活発な情報共有、問題提起が行われている。

 最初は「何を使ってどう授業をすればよいのか」という共通の困惑から始まった。オンライン対応ツールに詳しい教員たちがノウハウを伝授し、それを受けて授業でそのツールを使った教員がその問題点をシェアし、語学の授業には何がどう使えるか、スポーツ系の場合は、実験のある学部での工夫は…など、全く惜しみなく、それぞれの知識と経験を共有してくれた。

◆オンラインで集中、学生の理解度向上

 オンライン会議システムの授業シーンならではの使い方は、ネットを検索しても得られない。グループの投稿には、この難局を共に乗り越えようとする大学教員の真剣な思いが詰まっていた。
 後期からは感染防止対策を徹底した上で、対面授業を再開する大学も増えたが、遠隔と対面のハイブリッド型授業を行う際の課題など、刻々と変化していく大学の現状に寄り添った投稿が今もリアルタイムでアップされている。予測不可能なコロナ禍で日々格闘する大学教員たちのつながりにノウハウだけでなく、気持ちも救われ、20年度を乗り切ることができた。

 現在、オンライン会議システムを使った同時双方向型の授業を行っている。リモートであっても顔を見ながら学びの時間を共有できるせいか、学生の意欲は高く、集中力を持って授業に参加している。学生には毎回ミニリポートを提出させ、フィードバックを返すことで授業の理解度を把握してきたが、理解度・定着度は例年より高く、ウェブカメラを見て堂々と意見を述べる様子に、間違いなくIT(情報技術)リテラシーもプレゼンテーション力もこのコロナ禍で向上したことが見て取れる。

◆学びを深める大事な部分

 学生同士のコミュニケーションが取れないのは心配だったが、グループ分け機能を使った討議演習を重ねるうちに、画面を通して互いの様子・表情を注意深く観察し、誰もが発言しやすいよう自然に配慮しながら話し合うスキルが身につき、当初は消極的だった学生も、積極的な学生と同じように議論に加わるようになっていた。
 学びの成果という点では大きな問題はなかったが、一方で何かを置き去りにしてしまった気もしている。教室での授業前後の学生との雑談から近況や関心を知って個々にフォローをしたり、授業の流れでふと、体験談を話すことで人生の先輩としてのメッセージを伝えたりといった、授業項目そのものではないが、学びを深めたり、学びを未来に生かすために大事にしてきた部分が、気が付けば抜け落ちてしまっていた。
 ツールを駆使してシラバス(講義の計画)通りに指導するだけが講師ではない。今後の授業形態がどうなるかにかかわらず、学生と向き合い、受け止めながら関わる講師の使命を忘れないよう心したい。コロナ禍でも置き去りにしてはいけないものがある。

 


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