川邊暁美のショート・コラム

「時事通信社」発行の”コメントライナー”に話し方やコミュニケーションについて執筆しています。

声を磨く朗読の勧め

第7373号  2021年10月26日(火) [印刷用PDF

◆コロナ禍、気になる声

 「周囲の声に以前より敏感になった」「自分の声が伝わっているか気になる」という人が増えてい る。長引くコロナ禍で、対面コミュニケーションの機会が激減し、マスク越しやオンラインでのやり取りが増えたためだろう。

 顔の半分以上が隠れるマスクを着けての会話では、表情が読み取れない分、声の大きさや抑揚、滑舌などが大切だと実感できる。オンラインでは、お互いの顔は見えてもニュアンスが伝わりにくいため、声の明瞭さに加えて、間の取り方や伝わりやすい言葉、丁寧な話し方が誤解を避けるために必要だ。

 そういう背景があり、これまでになく、自分の声や話し方が気になっているところに「会話が減り、声が出にくくなった気がする」という不安が追い打ちを掛けるようで、オンラインでボイストレーニングの講座を実施した際には、全国から思いがけず多数のご参加をいただいた。

◆意識的に声を出すこと

 ここでは、ボイストレーニング講座を受講しなくても、声が生き生きと輝き、豊かになるトレーニング法をご紹介しよう。それは声に出して文章を読むこと。いつでもどこでも始められ、「声を磨く」ために最大の効果を発揮する。

 筆者は、朗読家としても活動をしているが、アナウンサーとしてニュースを伝えていた若かりし頃に比べ、年を取り、声は低く、張りもなくなっているのに、語尾の表情や間の取り方、声の響きなど表現力の幅が広くなったことで、声が存在感、説得力を増したと感じている。

 詩や小説などを朗読するときに、普段の話し声よりも広い範囲で、声の5要素、①大きさ②高さ③速さ④間⑤音質(響き)を意識的に使うことが、声を豊かにしてくれるのだ。

 まずは、好きな詩や随筆など短いものを声に出して読むことから始めてみてはいかがだろう。ポイントは、そのときに自分の声に耳を傾け、その声を受け止めること。声は意識をした瞬間から変わってくる。何気なく声を出すのではなく、自分の声に耳をすますことで、おのずと発音や発声に注意が向く。そして、呼吸は、口からではなく、鼻から息を吸う腹式呼吸を心掛けよう。深い呼吸で声も心も安定する。

◆健康長寿につながる

 お勧めは、毎朝、目を通す新聞のコラム。各紙おおむね2分から3分程度に収まる長さで、声のウォーミングアップになる。声に出して読むと内容がしっかり頭に入るため、会話の糸口や朝礼のネタとして使えるかもしれない。

 構えて特別なことをするのではなく、自分の声を意識して発する瞬間を、日常の中でこまめに作ることが、即ち、声のトレーニングだ。気楽に始め、習慣化すれば、周りの反応が変わってくる。

 最近は、健康長寿につながる、という点からも、朗読が注目されている。「文字を読む」「言葉の意味を理解する」「文字を声で表現する」「自分の声を聴く」という行為を同時に行うことで、記憶力や集中力が高まり、脳が活性化する。のどや口の周りの筋肉、舌を鍛え、呼吸も意識するので、誤嚥性肺炎の予防になり、免疫力もアップするそうだ。

 声は、相手の潜在意識の深いところに働きかける。何気ない相手の声の調子に傷つくことも、逆に、その声の温かさに励まされたり、前を向く勇気をもらえたりすることもある。声の豊かさは心の豊かさ、それは人生の豊かさにもつながる。

逆境から立ち直る力

第7326号  2021年8月31日(月) [印刷用PDF

◆ 五輪選手たちの感謝の言葉

 いつの頃からか首相や知事、専門家の言葉などを遠くに感じるようになり、冷めた目で眺めている自分がいる。コロナ禍による自粛疲れ、緊急事態宣言慣れ、ワクチン接種による気の緩みが指摘され、報道される「医療の逼迫状況」や「総力戦」呼び掛けの緊迫感も、頭では十分に理解できるのだが、希望の光が差しかけては閉ざされる繰り返しに振り回され、心身が疲れてしまっている感は否めない。

 久しぶりに気分を高揚させてくれたオリンピックでも、競技を終えた選手たちが真っ先に、大会を開催してもらえたこと、関係者・ボランティアの方などへの感謝の言葉を口にするのを見て、選手たちがどれほどの逆風に耐えながらオリンピックを目指してきたのかと思うと胸が痛んだ。

◆ 谷真海選手の大切なもの

 そして、さらなる厳しい状況下で東京パラリンピックが開幕した。パラリンピックの理念は「失われたものを数えるな、残された能力を最大限に生かせ」だという。

 8年経った今でも忘れられない言葉がある。2013年の国際オリンピック総会で、2020年東京での五輪、パラリンピック開催を勝ち取ったチームジャパンの最終プレゼンテーションでのパラリンピアン・谷(旧姓・佐藤)真海選手の言葉だ。その高い完成度と場の空気を一瞬に変えた声・話し方、心を打たれたメッセージについては、かつて私も紹介したことがある。

 「私がここにいるのはスポーツによって救われたからです。スポーツは私に人生で大切な価値を教えてくれました」。冒頭のこの言葉から心をつかまれ、身を乗り出してテレビ中継画面に見入った。さらさらのストレートヘアーにさわやかな笑顔の彼女がいた。陸上選手でチアリーダーでもあった19歳の彼女が突然骨肉腫を発症し、右足膝下を切断したという自身の経験を語っていく。

 最も印象に残っているのは、「何より、私にとって大切なのは私が持っているものであって、私が失ったものではないということを学びました」という言葉。

◆ パラリンピックの理念と競技者の姿

 夢も希望も何もかも失ってしまったと絶望の淵に沈んだとき、パラアスリートとして陸上に取り組むことで、生きる力を取り戻した彼女は、その後、アテネ・北京・ロンドンのパラリンピックに出場するまでになった。東日本大震災直後には、被災した故郷の宮城県気仙沼市へも足を運び、子どもたちをスポーツの力で元気づける活動をしたという。

 「大切なのは持っているものであって、失ったものではない」。パラリンピックの理念に通じる、その言葉の意味するところが、目の前で繰り広げられているパラリンピアンたちのプレーからより深い真実味を持って心に響いてくる。

 東京大会のテーマには「レジリエンス(逆境から立ち直る力)」が掲げられている。谷選手は開会式で日本選手団の旗手を務めていた。彼女はトライアスロンに出場した。長いレースの最後を笑顔で締めくくり、「ここまでの経験が大きな宝物」と振り返った。

 コロナ禍で多くのものが失われた今、谷選手をはじめ、パラリンピアンたちが全力で競技する姿からどんなメッセージを受け取れるかは自分次第だが、それを自分自身の「逆境から立ち直る力」にしたいと思っている。

WEB面接、採用担当は万全か

第7285号  2021年7月8日(木) [印刷用PDF

◆ オンライン、企業側の対策は

 「面接官の表情がわかりづらく、伝わっているか不安だった」「質問が聞き取れなかったが、失礼と思い、聞き返せなかった」…。学生にWEB面接で不安に思ったことを尋ねると、このような声が返ってくる。

 学生には、オンラインの特性を踏まえた面接での伝わる声と話し方、表情や姿勢について指導をしているが、向き合う採用担当者のオンライン対策は万全なのだろうか。

 企業の採用担当者にとって、WEB説明会やWEB面接で、自社の魅力をアピールし、良い人材を見極め、獲得することは、厳しい状況下で自社が生き残るためにも気を抜けない真剣勝負の場であると思う。

◆ 熱意と魅力が伝われば

 WEB面接は、応募者から「会社の雰囲気が分かりにくい」という声もあるが、これは企業側にとってはメリットとも言える。比較的、小規模な企業であっても社屋の規模や設備などに応募者側の判断が左右されず、企業の第一印象の窓口となる採用担当者の熱意やそこで語られる企業の魅力がしっかり伝われば、心を動かすことができるからだ。

 しかも、リアルな場でのプレゼン力の差より、オンラインでのプレゼン力の差の方がずっと縮めやすい。例えば通常の会社説明会では、プレゼンの内容だけでなく、話し手の視線や表情、服装、立ち居振る舞い、声の力強さ、テンポなども伝わり方に少なからず影響するが、WEB説明会では姿が見える範囲がバストショット(胸から上の撮影)からウエストショット(腰から上の撮影)程度に限られる。この範囲の身だしなみ(襟元のしわ、ネクタイのゆがみは特に目に入るので注意)と表情、姿勢に気を配ればよい。また、声の力強さで相手を引きつけることより、伝えたいキーワードが相手の印象に残るように声の表情を工夫する方が効果的だ。

◆ WEBでの明確な伝え方

 WEB会社説明会や面接での伝わる話し方とは、まず、伝わり方にタイムラグ、ニュアンスのズレがあることを前提に、明確な伝え方を心掛けることだ。

 話す速さは通常よりも少しゆっくり、普段よりやや口を大きめに開け、滑舌を意識して、丁寧に話すと良い。また、音として紛らわしい言葉(「試作」と「秘策」など聞き間違うような言葉)は使わず、別の言葉に言い換えて誤解を避ける。できるだけ一文(主語から述語まで)は短く、40文字程度に収め、語尾「です、ます」まできちんと言い終えるように話すと信頼感が演出できる。

 そして、重要な言葉、会社の理念や数字などは、強い声で話すのではなく、他の言葉よりもゆっくりと抑揚をつけ、間を取って話すと、強く印象に残る。そう、あたかもその言葉に声でアンダーラインを引くようなつもりで。

 また、面接で質問する際は、「では、次に学生時代に打ち込んだことについて聞かせてください。あなたが、学生時代に打ち込んだことは何ですか」と2段階で質問を投げかけることで、答えるタイミングを相手にわかりやすく示す配慮を。話を聴くときは表情を見ることも重要だが、後で録画を見ることもできるので、WEBカメラから大きく目をそらすことなく、うなずきや表情、ジェスチャーなどは普段よりも大きくし、真剣に聴いているという誠意を示すことで、相手の本質を引き出すことができる。採用担当者も「見られている」「評価されている」ことを忘れずに対策を。


<バックナンバー>

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第7244号 2021.5.17 違和感が心に刺さる
第7202号 2021.3.18 言葉は澄んでいるか
第7161号 2021.1.28 リモート授業の忘れ物
第7117号 2020.11.19 見事!カマラ・ハリス氏のスピーチ
第7077号 2020.9.28 菅首相のキャラと話し方
第7033号 2020.7.30 心に響かない伝え方
第6981号 2020.5.22 オンライン映えする話し方
第6936号 2020.3.18 パニックを抑えたリー首相のメッセージ
第6886号 2020.1.9 安倍首相の話しぶり、5年前と比べると
第6841号 2019.11.5 クレーマーはこうしてつくられる
第6784号 2019.8.19 笑顔のシンデレラに学ぶプロ意識
第6690号 2019.4.15 聴衆を惹きつけて離さないために
第6734号 2019.6.12 トランプ大統領の「Reiwa」スピーチ
第6642号 2019.2.7 違和感満載の言い回し
第6586号 2018.11.14 高齢者に聞き取ってもらうには
第6535号 2018.9.6 「ハラスメント」と言われないために
第6483号 2018.6.28 女性活躍へ話し方改革を
第6432号 2018.4.18 ザッカーバーグの謝罪に見るスピーチ力
第6388号 2018.2.14 肝心なのはコミュニケーション力
第6352号 2017.12.18 共感を呼ぶ言葉、反発を呼ぶ言葉

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