川邊暁美のショート・コラム

「時事通信社」発行の”コメントライナー”に話し方やコミュニケーションについて執筆しています。

肝心なのはコミュニケーション力

第6388号 2018年2月14日(水)[印刷用 PDF

◆安全神話も「勘違い」で崩れる

 昨年12月、博多発東京行きの新幹線のぞみの台車に亀裂が入っていることが、名古屋での点検で見つかった。現場と指令の認識のずれから危険性が共有されず、運行を続けてしまったのだ。名古屋駅で運転を取り止めたときには、脱線事故が起こりかねない危険な状態であったという。

 JR西日本では「新幹線の運行システム全体に問題があった」と謝罪し、台車の異常を検知できるシステムの導入や運行停止の判断基準の明確化、異常事態の映像・音声をタブレットで共有できるようにするなど対策に取り組むとしている。しかし、マニュアルを追加したり、システムやツールの強化などハード面での対策だけで、再発防止策は万全と言えるのだろうか。
この問題で露呈したのは、日本の技術力の象徴でもある新幹線の「安全神話」がこんなにお粗末なヒューマンエラー「勘違い」でもろくも崩れる危険にさらされているということだ。

◆たまたま受話器を離したために

 出発直後から異音や異臭、もやなど異常の兆候が車掌や乗客から指摘されたのを受けて、乗り込んだ車両保守担当社員が、東京の指令所に「新大阪駅での点検を提案」したが、電話を受けた指令員には伝わらなかった。たまたま受話器を耳から離していたため聞き逃したという。

 保守担当は「点検の提案が指令に伝わった。点検に向けて調整してくれている」と思い、指令は「保守担当が点検を主張しないので運行に支障はない」と判断したまま、お互いの認識を確認し合うことはしなかったというのが事実であるなら、コミュニケーションスキルの欠如が問題を大きくしたと言わざるを得ない。

◆入念に再確認、認識を共有

 分かりきったことだが、「電話」では、「対面」よりも誤解が生じやすい。同じ事象を見ているわけではないので「何がどのような状態であるか」、言葉で明確に伝え、共通認識の土台を作らなくてはいけない。一方的に自分のペースで話すのではなく、話の「項目」を立てながら「ここまでは伝わっているか」を確認しながら話を進めていく。

  聞き手も積極的に情報を聞き取る姿勢で対応するべきだろう。「聞いている、理解している」ことを示す「相づち」も必要だ。「はい」「わかりました」「この点はどうですか」「もう一度確認させてください」「承知致しました」「ここまでのことをまとめると」など、自分が受け止めたことは「このように聞いた」と伝え返す。わからないこと、よく聞こえなかったことは確認する。抜けている要素は質問する。最後にお互いの理解を確認し合い、次に何をするか確認して電話を切る。

  これは言うまでもない、仕事をする上での最も基本的なコミュニケーションスキルである。「基本的なことをきちんとする」ことが、社員一人ひとりが責任を果たすために、また余計な危機を招かないためにも大切だ。システムでカバーすることばかり優先させていては、その隙間を突く事態が起こったら同じことの繰り返しだ。様々な現場で同様のコミュニケーションギャップから無用なトラブルが起こっていないか、心配でならない。

(かわべ・あけみ)

共感を呼ぶ言葉、反発を呼ぶ言葉

第6352号  2017年12月18日(月)[印刷用 PDF

◎失言の上塗り 根底にあるのは

 2017年の流行語大賞の一つに、森友・加計問題で注目を集めた「忖度」が選ばれた。「忖度」は「察しの文化」である日本ならではの言葉でもあり、本来は悪いイメージの言葉ではないのだが、今年、多用されたシーンの影響で「強い者の意向を慮って異例の配慮をする」というニュアンスで定着した感があり、うっかり使えない言葉になってしまった。

 今年も政治の世界から世間を騒がせる言葉が多く飛び出した。失言・暴言も多かった。4月に辞任 した今村元復興大臣。「(原発被災者の避難先からの帰還問題は)自己責任だ」「(記者に対して)うるさい」と暴言を放った激高記者会見で注目を集める中、「(震災が起きたのが)東北で良かった」とさらに許されない言葉を口にし、更迭。政権に打撃を与えた。

 なぜ、わざわざ失言の上塗りをしてしまったのか。根底には「本人がそれを失言だと自覚していない」ことと「自分自身の立場がわかっていない」という「世間との感覚のズレ」がある。失言した後に慌 てて「そういう意味ではなかった」などと釈明しても、逆に、人権意識の希薄さや言葉に対する鈍感さ、責任の無自覚を露呈することになってしまう。

◎大切なのは「目線」の位置

 言葉の選び方一つで流れが変わってしまったのが、先の衆院選で「希望の党」を率いた小池都知事だ。小池都知事は、これまで言葉の使い方が実に巧みであった。古くは環境大臣時代の「クールビ ズ」、防衛大臣時代の「女子の本懐」。そして、都知事になってからの「守るべきものは断固として守り、変えるべきものは勇気を持って変える」「都民ファースト」など、その場に応じて、スマートな語感の言葉あり、力強いリーダーシップや勇気・覚悟を感じさせる言葉あり、と使い分けながら、多くの人の印象に残る、新鮮で共感を得る言葉を発信してきた。その言葉が受け止める側にどう取られるか、「相手目線」に立ち、受け止めやすいポジティブな言葉選びがなされているのだ。
 が、「排除」はその言葉を発する自分目線に立った言葉だ。上から目線のネガティブな言葉であり、反発を生んでも仕方がない。

◎「謙虚」「丁寧」も押しつけでは…

 違和感を抱かせる言葉と言えば、今年も不祥事を起こした組織のトップによる記者会見が多かったが、冒頭に「この度は大変なご心配を掛け…」とお詫びするのはいかがなものか。「ご心配」では なく、まず「ご迷惑」とするのが謙虚な反省の弁であると思う。

 「謙虚に」を国会で多用したのが安倍首相。森友・加計問題に対して「謙虚に」「丁寧に」と繰り返し 強調していたが、「謙虚」も「丁寧」も押しつけるものではなく相手に感じてもらうもので、自分からアピールするのは逆に傲慢な印象を与えてしまうので気をつけたい。

 言葉は受け止める相手次第。真意と違っていたとしても相手が受け止めたこと、伝わったことが全てだ。言葉の表現を吟味する際に「自分目線」ではなく、「相手目線」で考えて選ぶことが大切だ。それこそ「忖度」か。

(かわべ・あけみ)


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