川邊暁美のショート・コラム
ビジネス・コミュニケーション

HOME > 川邊暁美のショートコラム > ビジネス・コミュニケーション

1.パワハラにならない部下とのコミュニケーション

2011年11月10日(木)

◆上司としての言葉に責任を

「パワーハラスメントだと言われたら困るので、部下に対し指導ができない」という相談を受けるこ とがある。パワハラになることを恐れるあまり、面と向かって注意や指示を行うことを避け、仕事上、必 要なやり取りをメールで済ませがちだということだ。

しかし、希薄なコミュニケーションでは、組織として のモチベーションが上がらず、成果も生まれない。それどころか、意思疎通ができないことで、大きな トラブルが発生する危険性すら、はらんでいる。そこで、部下とのコミュニケーションで気をつけたいの は、上司である自分の言葉が相手に与える影響の大きさ、その責任を自覚しておくことである。

◆話し掛けは「I(アイ)メッセージ」で

部下と話をする前に、伝えるべき内容(指示・確認事項、伝達情報など)を頭の中で整理し、不用意 に相手を傷つけたり、不信感を与えることのないよう、気持ちも落ち着けておこう。特に、相手にとって 有難くないことを伝えるときには、配慮が必要だ。他の社員の前で、大声でミスを指摘したり、「だから、君はだめなんだ」などと無能呼ばわりすることは、人格をおとしめる行為であるので、気をつけたい。

できれば、お互いが冷静に、安心して話ができる時間と場所を用意する。そして、話すときには「I(ア イ)メッセージ」、つまり、「私は~」を主語で話し始めるとよい。「YOU(ユー)メッセージ」だと、「君はい つも~だ」「あなたはなぜそうなのか」と相手を責める展開になりがちだが、「私は、君の仕事ぶりにつ いて~と感じている」「私には、あなたが~のように見えるので、話を聞かせてほしい」と心を開いて話 すと、相手も本音を話しやすくなる。

◆声の大きさや視線にも気配り

その際、言葉以外の要素(声の大きさや調子、視線、表情、動作、姿勢など)にも気を配り、威圧感 を与えないようにしよう。正面で向かい合うより、斜めや横並びの方が圧迫感は少ない。部下を自席 に呼んで話す場合も、立たせたままで話すのではなく、椅子を用意し、同じ目の高さで話すとよい。

一 方的でなく、相手の反応を受け止め、言い分をしっかり聞くことも大切だ。部下とのコミュニケーション に苦手意識を持たず、日頃から「頑張っているね」「この前の~は良かった」など承認の言葉を掛け、 相手に意識を向けていること、存在を認めていることを、言葉で伝えていこう。

2.モチベーションを高める朝礼

2012年7月9日(月)

◆朝の挨拶に気持ちを込める

朝礼は一日のスタート。一人ひとりが仕事に向けて心身を整えたり、職場の連帯感を高めたり、報告・連絡・相談など必要な情報を伝達する場でもある。が、果たして、その朝礼がうまく機能している職場がどれほどあるだろうか。 「おはようございます」、朝の第一声で、その日のモチベーションが決まる。

顔も上げずに、口の中でもごもごと挨拶を流してしまっている職場と、全員が顔を上げ、目を合わせてお互いの存在を認識し、心を一つに交わした挨拶で一日のスタートを切る職場、どちらがコミュニケーションがうまくいくだろうか。挨拶は、必ず仕事の効率を左右し、結果にも影響してくる。挨拶は丁寧にしたとしても、5秒程度のもの。そのわずかな時間に気持ちと意味を込められるかどうかが、会社の業績に関わってくるとしたら、おろそかにできるはずはない。わずか5秒のことだ。

◆朝礼は要約力を高める訓練にもなる

時間の限られた朝礼だからこそ、伝達事項はコンパクトに要領よく、かつ、誤解のないように伝えたい。ポイントは

(1) 伝える項目を箇条書きにして示す
(2) 内容は簡潔に、結論は先に、一文は短く
(3) 早口にならないよう、反応を確認しながら伝える

-ということだ。 「今朝の連絡事項は、3点あります。1点 目は、健康診断の件、これは各自にメールを送っていますので必ず読んでおいてください。2点目は、 企画会議の提出書類の締切の確認です・・・」というように、手短に要点をまとめて伝えることは、要約力を高めるトレーニングにもなる。

◆「ミニ・スピーチ」の実践が仕事に活きる

朝礼を、より仕事の成果に結び付けたい場合には、ミニ・スピーチの実践がお勧めだ。順番にその日の担当者がスピーチをするという職場はよくあるが、効果的なのは全員がスピーチをすること。与えられた「テーマ」に沿って、即興で考えた1分間のスピーチを2人1組になり、順に実践する。何組かの代表者に後で全員の前で発表してもらってもよい。

その場でスピーチを考え、言葉を発することで、脳にも声にもエンジンがかかり、その日のプレゼンがスムーズにいったという例もある。15分~20分程度の時間しかとれなくても、その朝礼が一日のスタートダッシュになるか、「あ~、きょうもまた一日が始まった~」の繰り返しになるかは、心掛け次第だ。

3.「聴く」ことが信頼を生む

2012年10月9日(火)

◆相手を尊重する「聴き方」

問題が発生した組織でしばしば取り沙汰されるのは、上層部が「把握していなかった」「報告が上がってきていなかった」という風通しの悪さである。誰しも「我が社は大丈夫」と思うものだが、部下が日常的な仕事の経過やちょっとした行き詰まりについて、あるいは、プライベートな出来事について、自然に話をしてくれているか、振り返ってみてほしい。

部下の話を聞いているつもりで、実は、聞けていないことはないだろうか。この場合は「聴く」という字を使った方が、イメージがつかみやすい。カウンセラーがクライエントに関わるときの「傾聴」にあたる、相手を尊重する聴き方だ。

◆「大きな耳と十の目と心」

筆者は、「聴く」ということは、その漢字を分解して、大きな耳と十の目と心で、言葉だけでなく、表情やしぐさからも相手の真意を汲み取るように話を受け止める、という意味だと考えている。相手が何を求めているのかも見極めたい。ただ聴いてもらえるだけで十分、という場合もあるだろうし、何らかの解決策を提示してほしい場合もあるだろう。

しかし、良い聴き手になることは少々難しい。聴き手が上司の場合、話を最後まで聴かずに指示したり、叱責してしまっていないだろうか。例えば、取引先から帰ってきた部下が、「きょうは、ちょっと大変だったんですよ(でも、収まりました)」と言ったとする。 部下が詳細な報告をしようとしているのに、上司が「何っ、どうしてそんなことになったんだ」と責めたり、「仕事なんだから、大変で当たり前だ。愚痴をこぼすな」と突き放したり、「私にどうしろと言うんだ」と感情的になるなど、いちいち過剰に反応していては、部下はそれ以上、何も言えなくなってしまう。

◆気持ちを共有し、話を受け止める

そんなことを繰り返しているうちに、本当に対応しなければいけない事態を見逃してしまうこともある。それでは、それこそ取り返しがつかないことになる。筆者も講師という仕事柄、つい先回りして解決策を提示してしまい、いつも反省している。そんなとき、浮かぶのが俵万智さんの短歌「『寒いね』と話しかければ『寒いね』と答える人のいるあたたかさ」だ。

情報の共有は言うまでもないが、上司と部下で気持ちが共有できていることも、組織のモチベーション維持とミスのない仕事のためには欠かせない。まずは、耳、目、頭、心を使って、部下の話を受け止めようとすることだ。

4.新入社員を育てる

2013年4月15日(月)

◆ビジネススキル偏重の社員研修

新入社員を迎えた職場では、今は、職場全体に緊張感と期待感がみなぎっている頃だろう。公益財団法人日本生産性本部によると、今年の新人は「ロボット掃除機型」だとか。巧みなネーミングに感心するが、実際には入社したばかりの新入社員がどのようなタイプなのかが明らかになるのはまだ少し先のことだ。

筆者は毎年、いくつかの企業の新入社員研修に携わっているが、年々、研修項目が、即戦力的なビジネススキルに偏ってきていると感じている。電話応対、名刺交換、プレゼンテーション・・・。どれも大切なものだが、それをテキストに沿って完璧にすることばかりに力を注いでも、本当に即戦力のビジネススキルを身につけたことにはならない。

◆「自分の力で考える」ことの大切さ

ビジネスは相手あってのものだ。状況を判断し、臨機応変に対応することが求められる。「この仕事の目的は何か」「今、何が一番大切なのか」「どのようにすることが信頼関係を築くために必要なのか」などを判断して、ベストな方法を探らなければいけない。

そのためには、社会人、組織の一員としての自覚や責任、仕事への取り組み姿勢、仕事上のコミュニケーションに求められるものなど、そもそも仕事をする上での基盤となる考え方を段階的に理解させながら、「自分の力で考える」ことができるよう、導いていくべきではないだろうか。ビジネススキルもその基盤があってこそ、しっかりと根付くものだ。

◆受け入れ側に必要な「余裕」

「精神論はいらない」と実践的な演習を中心に研修を行った企業の研修担当者が、研修会場から 一歩外へ出た途端、解き放たれたように羽目を外し公共の場で騒ぎ始めた新人の行動に、大慌てし たという話を聞いたが、それは新人の資質の問題ではなく、社会人として取るべき行動を自覚できる よう導いていない、受け入れる側の問題かもしれない。

新入社員を迎える方では期待が大きいため 「できていないこと」に目を向けがちであり、他との比較をしやすい項目で評価しがちだ。また、自分た ち世代との「違い」を探し、新人とのコミュニケーションに苦手意識を抱きがちになる。が、思い起こし てみれば、誰にでも新人時代はあったはずだ。最近の新人はただでさえ、プロセスを省略し、性急に 答えを出すことを求められて育った世代だ。「長い目で見る」ほどの余裕はないにしろ、早々にジャッ ジを下さずに、しっかりと関わり、育てていってほしい。

 

5.言葉を磨くことは心を磨くこと

2014年1月6日(月)

◆相手の心に響いているか

新年にあたって、昨年、出会った心に残る言葉を振り返ってみた。手帳に書き留めた言葉の中には、勇気をくれた一言もあれば耳に痛い指摘もあるが、一つ一つの言葉には確かに受け取った側の心を動かす力があり、「言葉には言霊が宿っている」ことを改めて胸に刻んだ。

日々の仕事や交流の中で、私たちは無数の言葉を発しているが、その言葉は相手の心にどのように響いているだろうか。言葉はまず、声に乗せて発せられる。その声は話し手の人柄が感じられ、相手への思いやりや親しみがこもった声だろうか。そして、その言葉は内容(意味)と心(感情)が伴った、聞く人の心を満たしてくれる言葉だろうか。

◆マイナスの要素をプラスにも

思い出すのは、昨年、ある観光地を旅行したときのことだ。あいにくの雨で、訪れる先々で「晴れていたら景色が素晴らしかったのに」「遠くから来られたのに残念なお天気で」と声を掛けられた。ところが、ある寺院では違った。「雨ですので、庭の苔(こけ)がきれいですよ」と笑顔で迎えられたのだ。その一言で、「雨=不運」ではなく、「雨=幸運」と発想を180度転換することができ、雨の旅が楽しい思い出になったことは言うまでもない。

雨の日に訪れた観光客を気の毒に思う気持ちは同じでも、一歩深く相手の心に寄り添えば、相手が聞きたい言葉が浮かんでくる。気の毒がられるより、せっかくの旅を楽しいものにしたい、「来て良かった」と思いたい、という気持ちが根底にあるはず、と想像することができれば、マイナスの要素をプラスの言葉に変えて伝えることができるものだ。

◆一人よがりの言葉も避けよう

自分が伝えたい言葉ではなく、相手が聞きたがっている言葉を伝えるようにする。このことは、スピーチやプレゼンテーションにも通じる。相手が関心を持っているのは何か、何を期待しているのか、不安なのはどこなのか、それを想像して戦略を練り、先に相手が聞きたがっていることから話すようにする。相手に寄り添うためには、一人よがりの言葉も避けたい。

「感動的」「画期的」などの言葉を安易に使うのではなく、何がどう心を揺さぶられるのか、どこがどの程度従来製品と違うのか、話し手自身の血の通った言葉で具体的に伝えるようにしよう。言葉は私たちの人間性を写す鏡。伝わる言葉、相手の心に響く言葉を探し、言葉の感性を磨くことは、自分自身を磨くことでもある。

6.コミュニケーション能力は「感じ取る力」

2015年3月9日(月)

◆コミュニケーションが苦手な若手社員

2016 年卒業の学生の就職活動が解禁となった。各企業が求めるスキルとして必ず上位にランクす るのが「コミュニケーション能力」である。だが、「コミュニケーション能力」を重視して採用されたはずな のに、一方的にセールストークをまくしたて相手を不快にさせたり、問い合わせの電話をクレーム電 話と勘違いして逆に相手を怒らせたり、上司の指示の意味を取り違え、的外れの仕事をしていたり、 といった「相手に合わせて臨機応変に対応する」「相手の意図や心情をくみ取る」ことが苦手な若手社 員がどの現場にもいるようだ。

◆相手と気持ちを通わせる

「コミュニケーション能力」というと「社交性」「協調性」や「プレゼンテーション能力」がまず思い浮か ぶが、コミュニケーションが成り立つ前提として「聞き取る力」、「感じ取る力」が欠かせない。例えば、「雨が降ってきた」と上司が言ったとする。「では店頭の商品を雨対応の物に変えましょう」と言うか、「明日のゴルフ、心配ですね」と言うか、「これでまた春に一歩近づきますね」と言うか。表面的な言葉 だけでなく、相手の感情や状況を判断して意図に合ったボールを投げ返すことができるか、がコミュニ ケーション能力だ。相手の意図が分からなければ質問すればいい。「今、~と仰いましたが、それはこ ういうことでしょうか」、そこからキャッチボールが始まる。自分の考えを相手に伝えられるスキルはも ちろん重要だが、相手と気持ちを通わせることができなければ、いくらプレゼンスキルを磨いても伝わ らない。相手の興味、関心、立場を想像してストーリーを考え、声・言葉を選ぶ。また、電話応対でも 相手の心情を考えて言葉を尽くす。急いでいる相手には結論から単刀直入にテキパキとした話し方 で伝える、お困りの相手からの電話にはまずしっかりと話を聞く姿勢で対応する、などだ。

◆一方方向でなく双方向のやり取りを

東日本大震災後に AC ジャパンのテレビコマーシャルで金子みすゞの詩「こだまでしょうか」が流れ ていた。「遊ぼうっていうと、遊ぼうっていう。ばかっていうと、ばかっていう・・・・(中略)そうして、あとで さみしくなって、ごめんねっていうと、ごめんねっていう。こだまでしょうか、いいえ、誰でも」。自分が発 する言葉次第で相手から返ってくる言葉は変わってくる。一方で、自分が受け止める側になったとき は、相手と向き合い、相手からの言葉を受け止め、それに寄り添った言葉・反応を返していくことで信 頼や親近感が生まれる。


PageTop

MENU