心に響くスピーチ・プレゼンの極意
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1.人前であがらずに話すコツ
2011年6月23日(木)
◆「声」の状態を整えておく
「どうしたらあがらずに話せるようになりますか」、話し方やコミュニケーションの講演・研修でよく質 問される。「あなたがあがるというのはどういう状態ですか」と問い返すと、「声が上ずってしまう」「呼 吸が苦しくなる」「頭が真っ白になって言葉が出てこなくなる」「言葉を噛んでしまう」・・・など様々な答 えが返ってくる。その要因を大別すると、
①「心」に由来するもの(成功しなくてはいけない、よく思われ なければいけないというプレッシャーなど)
②準備の仕方や練習方法が不十分など「スキル」に由来 するもの
③「声」に由来するものーがある。
このうち、意外と多いのが③だ。「声」の状態が整っていないために「あがった」状態を引き起こして しまうことである。話し始めた途端に声が上ずったり、裏返ったりすると、それだけでとても焦る。話の 内容より声が気になり、咳払いをしたり、喉に力を入れたりして、余計に声が割れてしまい、ますます 焦る・・・こんな経験はないだろうか。
◆軽い体操で力を抜く、重心を後ろに
「声」はちょっとした心がけで、良い状態に整えておくことができる。気持ちよく声を出して話すため には、「首、肩、背中などに余計な力が入っていないこと」「呼吸が深く落ち着いていること」が大切だ。 人前で話すときには知らず知らずに身体に力が入ってしまう。「肩の上げおろし」「肩甲骨を回す」「首 を左右に倒す」など軽い体操をして、余計な力を抜いておこう。立ち姿勢が前のめりになると、喉が締 まり、呼吸も浅くなりがちだ。立つときはやや後ろ寄りに重心を置くと背筋が伸び、自然に声が響きや すいばかりか、堂々として見える。無理な発声練習は喉を傷めるので禁物である。代わりにお気に入 りの1曲を軽くハミングすることで喉を温め、心もリラックスさせておこう。
◆顔の筋肉をほぐす早口言葉
仕上げに、舌と唇の運動になる早口言葉「パラピリプルペレポロ」を10回唱えれば、顔の筋肉もほ ぐれ、表情も柔らかくなる。聞きづらい声は聞き手のストレスにもなる。声の状態を整えて「あがる」大 きな要因を取り除き、話し手も聞き手も内容に集中できるようにしたい。
2.1時間の講演を頼まれたら・・・
2011年10月4日(火)
◆まず大雑把な設計図を描く
1時間程度の講演を依頼されたら、どのような準備をすればよいのだろうか?まず手順としては、 その会の目的、趣旨、参加者の顔ぶれ、自分に依頼した理由、期待される内容などを先方に確認す る。場違いの独りよがりの講演にならないための第一歩である。その次に、テーマを踏まえて、一時 間の話の設計図を描く。最初は大雑把でいい。A4の用紙を四つ折りにし、広げてできた四つの枠 (1)~(4)に、1時間を15分ごとに4分割し、話したいことをキーワードで書きこんでいく。ただし、最 初と最後の15分は、冒頭の主催者挨拶や講師紹介、講演後の質疑応答、謝辞などに時間を取られ ることがあるため、正味10分程度と考えておくと、余裕を持って対応できる。
◆導入部で話の道筋を示す
(1)は、話の導入部。ここでは、聞き手との共通項(出身地、業種、年齢、興味)で自己紹介をして 共感ゾーンを作り、本講演の概要や目標を示しておく。たとえば、「私が本日、お話ししたいの は、・・・・・・(講演の内容を一言でコンパクトに言い表す)ということです。この講演を、皆様にも・・・・・・ について、ともに考えていただくきっかけとしていただければと思います。本日は大きく分けて3つのこ とをお話し致します」というように、話のスタート地点とゴール地点、これからの道筋を明確にすること で、聞き手も心構えができる。
(2)と(3)は、展開部。それぞれ2~3つ程度の小項目で整理するとよ い。例えば、小項目を3つに分けると、1項目当たり5分程度。この5分は、「A:専門的なスキル、ノウ ハウ、メッセージ(2分)+B:具体例、データ、エピソード(3分)」のように、その内容を補足し、説得力 を持たせる裏付けとの組み合わせにしておくと深みが出る。また、講演中に時間が押してきたら、Bの 部分を省くことで調整できる。
◆「決め」のメッセージを用意する
(4)は、まとめ部分。講演を振り返り、キーワードを整理し聞き手に落とし込む。たとえ、ここまでの 話がまとまらなくても、フィニッシュがきれいに決まれば、聞き手の満足感は高まる。「これだけは伝え たい」というメッセージを用意しておこう。話の設計図(時間配分、項目)ができたら、話す内容を固め ていく。一般論より、あなただから語ることのできる体験、ノウハウが喜ばれる。あなたの言葉で熱く伝 えよう。
3.披露宴でのスピーチを頼まれたら
2012年4月27日(金)
◆5つの確認
ポイント プレゼンテーションは百戦錬磨という方でも、結婚披露宴でのスピーチとなると少々勝手が違う、と頭を悩ますことがあるのではないだろうか。フォーマルな場、しかも、新郎新婦にとっては一世一代の晴れ舞台で、組織を代表する立場としてお祝いの言葉を述べるのだから、仕事とは違うプレッシャーがかかってくる。が、実は、結婚披露宴のスピーチほど、準備しやすいものはない。なぜなら、スピーチ準備の際には5つの要確認ポイントがあるが、披露宴のスピーチの場合は、これらがすべて手に取るように明らかだからだ。
◆あれもこれも話す必要はない
すなわち、「何のために(新郎新婦への祝辞を述べるとともに、出席者に新郎新婦の長所をアピール)」、「どんな立場で(仕事ぶりや人柄をよく知る上司として)」、「誰に(新郎新婦と披露宴出席者に)」、「どんな状況で(ホテルの披露宴会場で3~5分程度立って話す、マイクあり)」があらかじめ明確に示されているため、「何を話すのか(内容)」もおのずと絞られていくからだ。そして、スピーチの構成もほぼ決まっている。
(1)新郎新婦・両家へのお祝いの言葉
(2)新郎新婦との間柄、関係を自己紹介
(3)自分ならではの新郎新婦に関するエピソードを披露
(4)新生活へのアドバイス
(5)お祝いの言葉で締めくくり-。
これで、時間内に納めようとすれば、あれもこれもと話す必要はない。メインは(3)、お祝いの場にふさわしい内容で、上司としてなら、本人の仕事ぶりや同僚、お客様からの声などを交え、失敗談でもよいが微笑ましいレベルの話、もしくは、それを克服して成長したというプラスイメージにつながる展開にする。できれば、事前に本人に了解を得る方がよい。
◆「故事引用」は自身の思い盛り込んで
話題が見つからない場合は、偉人の言葉や故事成語、詩、短歌などを引用するのもよいが、「借りてきた言葉」は上滑りになるので、必ず「なぜ、新郎新婦にこの言葉を贈るのか」、自分自身の思いを盛り込んで語ろう。(4)では、パートナーの印象や人生の先輩としてのアドバイスを。良い話、感動させる話をと気負わず、新郎新婦を思いやり、出席者の共感が得られる内容を、わかりやすい言葉遣いで、ゆっくりと会場全体に目配りをしながら、話すといい。仮に途中がまとまらなくても、最後に「本日は本当におめでとう。私も心から喜んでいます」など、人柄がにじみ出るお祝いの言葉と笑顔で締めくくれば、丸く治まる。
4.プレッシャーを良い緊張に変える
2012年8月16日(木)
◆適度なストレスが活動を活性化する
ロンドンオリンピックで活躍が期待された選手が、結果を残せなかったとき、翌日の新聞には「重圧に押しつぶされた」「五輪には魔物が住んでいた」「メンタル面の克服が課題」などの見出しが躍っていた。4年に一度のオリンピックで国の代表として戦うのだから、プレッシャーを感じるのは当然のことだが、調子が良いときの水泳・北島康介選手は、「この緊張感、スリル感が心地よい」と話していた。
「期待に応えなければ」「メダルを取らなくては」などのプレッシャーによって、引き起こされる心身の緊張を「良い意味の緊張」に変えることが、大舞台で実力を発揮する秘訣なのであろう。適度なストレスは、人間の行動を活性化し、心理的・生理的に最も効率のよい状態をもたらすとも言われている。
◆プレッシャーを忘れ本番に臨む
では、どうしたら「良い意味の緊張」に変えることができるのか。筆者がNHKでニュースを担当していたとき、先輩アナウンサーから「本番前は自分が一番下手だと思い、本番が始まったら、自分が一番上手だと思え」とアドバイスされた。本番前には、一番下手な自分だから、決して手を抜かず、準備を入念にすること、そして、120%準備をしたら、本番には肩の力を抜いて、自分の力を信じて、落ち着いて臨むこと」という意味である。
人前で話す場合も、プレッシャーを感じること自体は、自分の使命・役割を自覚できているということだから、悪いことではない。その役割を果たすべく、準備し終えたら、一度、プレッシャーを忘れ、リラックスして本番に臨むことだ。
◆身体はイメージに反応する
そのためには、肩をほぐしたり、腹式呼吸でゆっくり息を吐く、軽い滑舌練習など、身体の緊張をほぐすのも効果的だ。より安心してスタート地点に立つために、導入のセリフだけは、手元に書いておくことをお勧めしたい。「ただいまから○○についてのプレゼンテーションをさせていただきます。○○の重要性とメリットを実感していただければと思っております」のように。
話し始めがスムーズだと、気持ちに余裕ができるし、第一印象も良い。絶対してはいけないのが、負のイメージトレーニングだ。本番前、スタッフに過去の失敗談を披露していたベテランアナウンサーが、直後のニュースで普段とは別人のようにミスを連発したのを目のあたりにしたことがある。イメージした方向に身体は反応する。良い緊張感を味わいながら、自信を持って本番に臨みたい。
5.印象に残る年末年始の挨拶
2012年12月11日(火)
◆シンプルすぎては響かない
「仕事納めや年頭の挨拶で何を話せばよいか」と相談をされる季節になった。一年の締めくくり、新年のスタートだからこそ、気持ちよく話したいし、できれば、聴き手の印象に残る挨拶をしたいものだ。社内での仕事納めの挨拶では、「この厳しい一年を実りあるかたちで終えることができるのは、ひとえに社員の皆さんの努力のお蔭です。今年一年、本当にお疲れ様でした」のように、今年一年の労をねぎらい、感謝する言葉で始めよう。が、この後すぐに、「では、どうぞ良いお正月を」では、シンプルすぎて心に響かない。
◆「干支」の話題は収まりがよい
そこで、年が改まる時期にふさわしい小ネタやエピソードを披露してみてはどうだろう。手堅いのが干支の話題だ。「大空を掛ける龍から、知恵があり、細心な蛇の年へと干支が変わるように、来年は私(我が社)も・・・」といった具合に、干支のリレーになぞらえて、新年に向けた決意を述べると収まりが良い。
また、まもなく日本漢字能力検定協会から「今年の漢字」が発表されるが、これを挨拶に取り入れるのもお勧めだ。「暑」(2010年)、「絆」(2011年)など、漢字一文字からその年の様々な出来事が思い起こされ、印象に残る。仕事納めなら、「今年の漢字」をそのまま「今年を振り返ると・・・」と、使うことができるが、新年の挨拶の場合は、昨年のことを中心に話すのではなく、ひと工夫して、オリジナルの「今年の漢字」をプラスし、今年の抱負を中心に据えると良い。
◆オリジナルの「今年の漢字」も
その場合の挨拶の構成は次のようになる。「昨年を表す漢字は『○』でした。まさに○○な昨年を表した漢字であると思いました」→「私の2013年を漢字一文字で言い表すと・・・『○』です。この文字に、私はこういう思いを込めました(その漢字を選んだ理由、決意、メッセージを一言)」→「皆さんにとっても、どうぞ良い年になりますように。本年もどうぞよろしくお願い致します(締めくくりの挨拶)」。これで1分程度にまとまる。また、気持ちに余裕がある人は、例えば、「昨年2012年は私にとって・・・『○』でした。振り返ってみると・・・(その漢字を選んだ理由、エピソードを一言)」と、オリジナルの「昨年の漢字」を語った上で、今年の漢字を披露すると、その対比がいきて短くてもインパクトのある挨拶となる。
6.スピーチの話材は自分らしさを大切に
2013年3月8日(金)
◆気負いはいらない
いろいろな集まりでスピーチの順番が回ってくる度に頭が痛くなるという声をよく聞く。先日もある経営者から「従業員相手に話すのは慣れているが、聞き手が経営者ばかりだと何を話せばよいのかわからない」と相談を受けた。聞き手が自分と同じく経営者であるとなると、歴史上の人物の言葉や時事問題を話しても「わかりきったこと」と思われているような気がして、毎回、話のネタに困っている、というわけだ。
しかし、なぜ「誰も知らない話をしなければならない」と思い込んでいるのだろうか。聞き手を感心させたり、感動させたりしなくては、という気負いがあるからではないだろうか。格調が高ければ良いスピーチというわけではない。その場にいる聞き手の共感が得られることが大切だ。
◆聞き手と共有できる話題
そんな時のアドバイスは、「誰もが知らない話をしなくては、含蓄のある話をしなくては、と思うから大変なのではないですか。発想を変えて『誰もが知っている話』を自分ならではの味付け、ストーリーに仕立てて、話してください」というものだ。誰もが知っている話、例えば、会合に近い日の新聞記事から自分の心に響いた記事をピックアップするなども良い方法だ。
政治経済などではなく、肩の力を抜いて聞け、共通項の話題、たとえば「昭和の大横綱大鵬が亡くなりましたね。その記事には長嶋茂雄さんのこんなコメントが載っていました・・・私はそれを読んで子どもの頃のことを思い出しました(過去)。その経験が今でも・・・(現在)。そしてこれからの子どもたちも・・・(未来)。皆さんはどう感じられましたか?」のように、自分が心動かされたことを聞き手と共有するような気持ちで話すとよい。過去現在未来に沿って構成をすると時間配分もしやすい。
◆言葉に自分らしく味付けを
また、言葉選びにも「自分ならでは」の味付けをしたい。話し手自身の視点や感性でもって表現された言葉を選ぶということである。具体的ではない言葉、たとえば「圧倒的な存在感で破格の品を手に入れる絶好の機会」というセールス文句に購買意欲がわかないのと同様に、「貴重で有意義な体験で感動した」と言われても、聞き手の心には響かない。「何にどのように心が動かされたのか、それはなぜなのか・・・」などを自分自身の言葉で語るようにすれば、身近な話題であったとしても印象に残るスピーチになるはずだ。
7.聴衆を引き付ける講演とは
2013年8月1日(木)
◆熱意、人柄、そして共感できる内容
注目企業のトップによる講演を聞いたとき、残念に感じるのは、資料の完成度は高くても、抑揚のない単調な口調で会社概要や事業内容を網羅的に話すなど、トップの熱意やその会社のリアルな姿が伝わってこないときだ。あなた自身の印象に残った講演を思い出してみてほしい。恐らく、話し手が事業のこと、自身のことを自分の言葉で語っており、熱意や人柄が感じられたとき、あるいは、内容が聞き手であるあなた自身にも参考になる、共感できる内容だった場合にその講演はあなたの心に残ったのではないだろうか。
◆「共感ゾーン」を作ること
話し手の心構えとして大切なのは、聞き手との「共感ゾーン」を作ることだ。そのためには、「話し手」と「聞き手」ではなく、「私たち」は「ともに」こういう目的意識を持ってこの場にいる、という共通のスタンスで皆の視点をそろえておくとよい。
たとえば、冒頭に「本日は、当社のよりよい未来のための取り組みについてお話し致します。皆さまもご自身の会社のよりよい未来について考えながらお聞きいただければと思います」のように、そこを共通の目的意識を持った「場」として整えてから、話し始めると、聞き手との心理的距離が縮まるとともに、主体的な姿勢で聞いてもらえる。
内容も、実績や最新のデータ、パンフレットを読めば分かる製品紹介ではなく、トップだからこそ話せる話が聞き手を引き付ける。失敗談、逆境を乗り越えた体験談、資料にない、ここだけの「裏話」を披露すれば、さらに好意的に話に聞き入ってくれるだろう。
◆聞き手とをつなぐフレーズを入れる
また、聞き手との間をつなぐ懸け橋となるフレーズを意識的に入れていくのも効果的だ。「皆さんもこんなことがあるでしょう。実は、私も同じでした」「こんなふうに、皆さんも長年思い込んでいたことが、発想を変えれば全く違うものに化けた経験がおありなのではないでしょうか」のように話し掛けたり、「このピンチのときに得た教訓は今でも私の胸にあります。
それは・・・」など実績を手柄話ではなく、誰もが参考になるビジネスの心構えやヒントとして提示すれば、一体感が高まる。講演は話し手の独壇場ではない。聞き手とともにゴールを目指していくつもりで、言葉を手渡し、反応を受け止めながら話ができれば、お互いにとって大変実りのある講演となるはずだ。
8.佐藤真海選手のプレゼンに学ぶ伝え方
2013年10月21日(月)
◆高い完成度
明確なメッセージ、堂々としたパフォーマンス、各プレゼンターの個性や経歴を生かした見事なチームプレー、日本人でもこんなに堂々としたプレゼンテーションができるのか、と誰もが驚いたのではないだろうか。2020年の五輪、パラリンピック東京開催を勝ち取った国際オリンピック委員会(IOC)総会での最終プレゼンテーションは完成度の高いものだった。特に印象的だったのはトップバッターを務めたパラリンピック・女子走り幅跳び代表の佐藤真海選手だ。彼女のプレゼンテーションを「声・話し方」「話の構成・内容」「表情・ジェスチャー」の3要素から分析してみたい。
◆場の空気を一瞬に変える
まず、「声・話し方」。冒頭に明るく張りのある声で、テンポよくメンバーを紹介し、場の空気を一瞬にして「チーム・ジャパン」に好意的なものに変えた。その声の表情が「スポーツの力」で乗り越えた2つの試練について語るときは一転、声のトーンを落とし、ときに声を詰まらせながら、言葉をふり絞るように静かに語りかけた。声の明暗やテンポに変化をつけたことが、聞き手を引きつけ、彼女のストーリーの感動をさらに深めたと言える。
次に「話の構成・内容」では、最初に「私がここにいるのはスポーツによって救われたから」であり、「それは、2020年東京大会で世界に広めようとしている価値である」と、プレゼンテーションの目的を述べ、聞き手の姿勢を作った。その上で、彼女にしか語れない体験について自分自身の言葉で語る一方で、「200人を超える日本、そして世界のアスリートたちが被災地に約1000回も足を運び、5万人以上の子どもたちに感動を与えている」と、数字を用いた表現で説得力を加えている。
穏やかな笑顔、まっすぐ前を見て語りかける真摯(しんし)な視線、時折胸に手を当てるしぐさなど、「表情・ジェスチャー」も自然体で人間性が感じられた。
◆大切な人に話すつもりで話すこと
筆者は、日ごろから「伝わる話し方の秘訣は大切な人に話すつもりで話すこと」だとアドバイスしている。目の前にいる聴き手を自分の大切な人と思い、この人に絶対に分かってほしい、この人にこそ伝えたいという熱い思いで、声を整え言葉を選び、全身で伝えるようにすれば、必ず相手の心に響く。佐藤選手のプレゼンテーションも血の通った、等身大の彼女自身がひたむきに語りかけてくる様子が聞き手の心を打ち、勝利を引き寄せたと言える。
9.小泉演説を取り入れるとしたら
2014年2月18日(火)
◆聞き手の関心を一極集中させる巧みさ
東京都知事選の応援演説で久しぶりに小泉純一郎元首相の言葉を聞いた。小泉氏の演説の特徴と言えば、「自民党をぶっ壊す」「構造改革なくして成長なし」「改革の本丸は郵政民営化」など、自らの主張を分かりやすくインパクトのある短いキーワードに落とし込み、繰り返し発していくことで、話の焦点、聞き手の関心を一極集中させることだ。
また聞き手への問い掛けを随所に盛り込むことも特徴だが、これは聞き手との距離感を縮めるとともに、当事者意識を煽り、主体的に聞く姿勢にさせる効果がある。この度の応援演説でも「課題は原発だけではない、もちろん、そうです。課題はたくさんある」と逆説的な表現で惹きつけて、「しかし、(中略)最も大きな違いは原発をどうするかじゃないですか」と続け、「テーマは脱原発、この1点である」という道筋に聞き手を誘導していく巧みさは健在だ。
◆ワンフレーズに絞り込みを
分かりやすい言葉とぶれない信念を持って語っているという印象で国民の支持を集めていた元首相の話し方は、プレゼンテーションにも応用できる。まず、プレゼンテーションのテーマを明快なワンフレーズに絞り込んでみよう。そのためには「一番伝えるべきことは何か」を突き詰めていくプロセスが必要だ。筆者はニュースキャスターをしていたときに「伝えたいことの7割を言えたら十分。
削ることで残した部分が輝き、削ったことも行間に生きる」と教わった。多くの情報を伝えようとするのではなく、最も重要な1点に絞ることで話の軸足が定まる。そして、そのワンフレーズを徹底して発していくことで聞き手に分かりやすいストーリーを示すことができる。
◆大事なことは「何が伝わったか」
また、話のリズム感やメリハリも意識したいところだ。主語と述語を離さず、一文「何がどうした」をコンパクトにまとめることで、たたみかけるようなリズムが生まれる。ところどころに情感のこもったセリフ的な表現を取り入れると変化がつく。たとえば「私たちの地球、今のままで良いのでしょうか。良くないですね。
今のままで良いわけがない、それなら何をしていかなくてはいけないか、ということを次にお話しします」のような問い掛けは聞き手を引き付ける。プレゼンテーションで大切なのは「何を話したか」ではなく、「何が伝わったか」。伝わらなければ何も始まらない。自信と信念を感じさせる力強い言葉が聞き手の心を動かす。
10.スピーチ成功のための準備力
2014年11月10日(月)
◆ぶっつけ本番はダメ
スピーチの名手と言われる人は、スピーチの機会があることを見越して、常に意識してスピーチの ネタを探してストックし、本番に向けて原稿を書いて練習をしているものだ。一方、「スピーチが苦手」 という人ほど「ぶっつけ本番」という大胆さに驚かされる。準備をしない理由は「準備の仕方がよく分か らない」、「原稿を書くと読み上げる調子になって不自然だ」などだ。
◆一つ一つ確認してイメージを固める
「準備の仕方が分からない」という人は、まず、スピーチの「目的」を確認してほしい。「何のための」 スピーチであるのか。自分が果たすべき役割は何か。次に「誰に」伝えるスピーチなのか。年齢や職業、集まりの趣旨などを押さえ、聞き手の共感を得られやすい話題や言葉を選ぶ。そして、「TPO」。TIME(持ち時間)は何分か、PLACE(場所)の広さや雰囲気。OCCATION(その他の状況)、マイク や演台はあるか、聞き手との距離はどのくらいか、など。これらを一つ一つ確認し、イメージを固めて いくと話の視点がぶれない。
1分間330字程度を目安に、一文(何が~どうした)が短いコンパクトな 文章、分かりやすいシンプルな言葉を心掛けると、メッセージもおのずと絞られていくはずだ。また、「原稿を書くと読み上げる調子になる」のは、原稿を作成してからの練習をあまりしないためだ。スピ ーチ原稿は書き上げてからがスタート。そこから、いかに「伝わる声と話し方」で表現するか。何度も 本番同様に声に出して練習することだ。録音したものを聞いてみたり、誰かに聞き手役になってもらうのもいい。
声の大きさ、高さ、強さ、間の取り方、強調の仕方なども工夫しながら、自然に話すように表現できるまで読み込む。特に、話し始めと話し終わりは、顔を上げ、意識的にゆっくりと話すようにすると、気持ちが落ち着くだけでなく、話し手の余裕を演出することができる。
◆準備は裏切らない
2020年東京オリンピック、パラリンピック開催を決めたIOC総会でのチーム・ジャパンの最終プレ ゼンテーションは、計45分のプレゼンテーションの最終リハーサルだけでも45時間以上を掛けたという。準備は裏切らない。仕事では十分に準備に時間を掛けられない場合も多いからこそ、余裕があるときに一度、本気で周到に準備をして臨めば、その準備のコツとスピーチの成功体験を次に生かせる。